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zoom RSS イベント10・11の裏側であった話  「風になった日」

<<   作成日時 : 2007/01/23 23:23   >>

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 視界いっぱいに広がる砂の地面を、熱をはらんだ風が荒々しく撫でていく。
 砂埃を巻きあげて吹きすさぶ熱風は、遮る物の無いここでは、どこまでも果てしなく旅をしていくことだろう。
 練兵場での訓練を視察中、真神貴弘は激しい風に運ばれていく砂を見ながら、そんなことを考えていた。背中を押す風に導かれてこの藩国に流れてきた昔のことを、ふと思い出す。
 砂煙の中を進む、無名騎士藩国が誇る機械化歩兵部隊。その中に、かつての自分の姿を見たような気がした。
「…何を見ているのでござるか?」
 その背後から、空紅が声をかける。ウチュウニンジャを志し,日々修行と研鑽に励む一方で、藩王フィギアの普及に暗躍している彼は、目下のところ、真神と同じくサイボーグ歩兵の訓練を視察することに全力を傾けている。
「兵の行軍だが…どうした?」
「いや、ちょっと興味があっただけでござる」
「…まぁ、見ての通りだ。視察だからな」
 苦笑いとともに返ってきた答えに、なるほど、と肩をすくめる空紅。
「そうそう。たった今、藩王殿下から言伝があり申した。すぐに政庁へ戻ってほしいとのことでござる」
 訝しむ真神。仕事中の自分を呼び戻さなければいけないほど、急な用事でもあるのだろうか。
「わかった。後はよろしく頼んだ」
「承知いたした」
 踵を返した真神の目に、空紅の首に巻かれたスカーフの紅が焼きついた。
 乱暴な風に翻るそれは、無機質な砂の世界のなかでは、あまりにも鮮やか過ぎた。


「えぇ…と、受付はどこかな」
 無名騎士藩国の政庁、その正門で、書類を片手に辺りを見回す青年が一人。
 真新しい砂除けを叩いて埃を払い落としつつ、知的な瞳に街の様子を映していた。
 政庁は、王城の中心にある中央広場に面している。
 この中央広場は一区画丸ごと使った円形のもので、その中を交易路が横断している。その中心には、政庁の周囲にめぐらせている堀と同じ水源を用いた、大きな噴水が設けられている。広場に集まる者は皆、この噴水のもたらす涼の恩恵にあずかることが出来るのだ。
 王城の中に入ってきた隊商はこの中央広場で荷を解き、テントを張って市を立てる。または、既に屋台を構えている商人に品物を卸す。
 交易路の両側に並ぶ各種の屋台では、果物や穀類が山のように積まれている。周囲では取引中の商人たちが大声で喚き散らし、その横を子どもたちが走り回る。広場や交易路の片隅にできた観光客の人だかりの中では、動物たちのいななきをBGMに、大道芸人たちが火を吐き剣を飲み込んで、その技を競っていた。
 その騒々しくも賑やかな人ごみの中で、政庁の前に佇む青年の姿を目に留めた、ある若者がいた。
「あの、ひょっとして、松本さんのお友達の方ですか?」
「はい?…ええ、そうです。私は松本裕也の友人で、ジンといいます」
「ああ、お話は伺っていますよ!どうぞこちらへ」
 雑踏を縫って現れた若者は、品を感じさせる顔に屈託の無い笑みを浮かべながら、ジンと名乗った青年とともに政庁正門の向こう側へと足を踏み入れた。
「申し遅れました。私はここで働いているキギといいます。どうぞヨロシク」
 にこやかにさし伸ばされる手を、ジンも静かな笑顔で握り返した。
 その二人に向かって、正門をくぐった新たな人影が近づいてくる。
 重々しい靴音が石畳に響く。

「ん?キギさんと…ジンさんですか!?」
 正門の影から姿を現したのは、砂にまみれたマントを纏った真神だった。
「うわ、お久しぶりです!」
 真神の顔がほころぶ。ジンもまた、にっこりと微笑んだ。
「お久しぶりです、真神貴弘さん」
「おや、お二人ともお知り合いだったんですか?」
 キギが、心底驚いた風に二人に尋ねた。
「ええ、以前違う仕事でご一緒しました」
 冷静な真神にしては珍しく、マントを脱ぐのも忘れて、やや興奮気味に話し始めた。
 その真神に先導される形で、政庁の奥へと進んでいくキギとジン。
 藩王以下、藩国の主だった面々が顔を揃える人事課執務室、通称“雨霧ルーム”の前に辿り着いた頃には、真神はこの藩国と『電網適応アイドレス』の概要についての説明を終えていた。
「失礼します」
 完璧なノックとともに、真神は執務室のドアを開いた。
「ああ、お待ちしてました」
「こんにちは」
 いつもの面々に挨拶を返しながら、真神は半身を引いた。その広い背に隠れていたキギとジンが、ドアの向こう側から姿を見せる。
「こんにちは。ジンさんをお連れしました」
「みなさん、はじめまして」
 藩王・GENZ伯爵夫人がジンの前に進み出た。
 エメラルドの瞳を輝かせながら、弾むように歓迎の言葉を紡ぐ。
「はじめまして。ようこそ我が無名騎士藩国へ。
 共に和して自由の旗に栄光を与える同志として、私たちはあなたを歓迎いたします」
 藩王自ら入国の手続きを行う脇で、真神は摂政である松本へと歩み寄った。
「…なぜジンさんがここに?」
 囁くような真神の問いかけに、松本は表情も視線も動かさずに、唇だけを動かした。
「吏族のなり手が不足している。だから呼んだ」
「…そうですか」
 各藩国の提出課題や資産等をチェックするという激務の為、現在無名騎士藩国には、吏族に専念できる担当者がいない。いなくても出さなければ藩国取り潰しとなるので、誰かを必ず出仕させなくてはいけないのだ。
「まぁ、問題はそれだけじゃないんだが…」
「はぁ…」
 兎耳の後ろをポリポリと掻く松本。
 真神の困惑した顔を一瞥すると、言葉を続けた。
「実は、新たな指示が尚書省から来た」
 同時に、送られてきた命令書を真神に見せる。
 どうでもいいがこの藩国、重要書類の閲覧規制というものが無い。藩王・摂政レベルで本来扱われる案件が、課長レベルでも簡単に閲覧できてしまう。
 情報の共有化が出来てなければやってけねーよ、とは、普段から執務室のソファーに寝っ転がっている、摂政兼人事課長のお言葉である。
「……ほう、テストパイロット、ですか」
 最近ロールアウトした共和国のI=D、「アメショー」。これの実働試験に参加するパイロットを、各藩国から募るというのだ。
「そこから先は、私が説明します」
 いつの間にか手続きを終わらせた藩王・GENZが、二人の傍らから声をかけた。
「ただ…少し場所を変えましょうか」


 GENZに連れられ、真神がやって来たのは王城一の酒場『中央広場』である。
 この『中央広場』は店名の示す通り、中央広場の一角にある。政庁とは交易路を挟んでほぼ真向かいの位置にあり、政庁職員が頻繁に利用する場所でもある。
 『中央広場』はその立地から、常に客足が途絶えない大層な繁盛振りを見せている。主に広場に集まる商人たちが利用するが、その様子を一目見ようと訪れる観光客も少なくない。そんな観光客たちは大抵の場合、昼間から酒を大いにあおり、大声で密談している男たちに面食らう。だがいつの間にやら陽気で気さくな商人たちと意気投合し、夕方には顔を真っ赤にして床に転がっていることも珍しく無い。
 ちなみに、この店のとある常連が顔を出すと、そういうことが必ずと言っていいほど起こるらしい。その常連は、長く美しい髪を持つ、妙齢の女性だということだ…
 さて、そんな『中央広場』の店内を、フードを目深にかぶったGENZと真神が、奥に向かって進んでいく。最近、藩王フィギアが国内に出回ってしまったため、それまで以上に街を歩きづらくなったGENZは、ビクビクしながら混雑する店内を歩いている。彼女のそんな後ろ姿を微笑ましく見つめながらも、そうまでしてここに来て話さなければいけない話の内容とは何なのか、真神は思案を巡らせていた。

 この店には、無名騎士藩国首脳陣専用の個室がある。
 ラウンジ完備のやや大きめな部屋で、砂の国である無名騎士藩国では貴重な木材のテーブルセットが備わっている。
 何かの機会を見つけては、ここで乱痴気騒ぎをするのが、政庁職員のストレス解消法の一つだった。真神自身も、この個室を使った覚えがある。
 二人きりだとあまりにも広く感じられるその個室で、GENZは話を切り出した。
「…テストパイロット募集の件については、松本さんからお聞きになってましたよね?」
「ええ」
「先ほど藩王会議に出席してきたのですが…我が藩国が、I=Dの試験飛行、その成功の鍵を握っているんだそうです」
「はい!?」
「要求されている能力が、我が藩国のパイロットは高いレベルで安定しているんです」
「…なるほど。いや、しかし…」
「ええ…問題は、我が国のパイロットは、吏族を兼務していることですね」
 現在、戦争準備を進めている共和国では、各藩国から吏族の出仕を要求している。各藩国からの割り当ては2名。その2名を出しつつ、I=Dの試験飛行のためにパイロットを出さなければいけない。
「…難しい問題ですな…」
 腕を組み、唸るように呟く真神。機械化された体の一部が触れ合って、硬い音をたてた。
 その真神を、GENZがほんの一瞬だけ、悲しそうに見つめる。
 意を決して、一枚の書類を真神に差し出した。
 無言でそれを受け取り目を通した真神は、なぜ自分がここに呼ばれたのかを理解した。
「…サイボーグパイロットの被験者を求む、ですか」
 それは、技術開発委員会からの要請であった。
 かねてからサイボーグ歩兵の研究・開発を進めている技術開発委員会では、宇宙空間での戦闘を念頭に置いた、新たなサイボーグ技術を研究中である。その一環として、航宙戦闘機パイロット用サイボーグのデータ収集を目的として、航空機でのサイボーグ技術試験の実施を、以前から要求されていたのだ。
 これまで他の重要案件を優先させていたが、そろそろ回答しないと委員会から文句が出る。
「……ふむ」
 考え込む真神。
 彼自身もサイボーグ歩兵であり、現場の兵士たちの士気の高さから来る更なる力の要求は、理解するところではある。
 だが…サイボーグ歩兵としての自分に、真神はこだわりがあった。それは、同じサイボーグ歩兵同志にしかわからないであろうものだ。
 己が肉体を失って、その代わりに得た絶大な力。それがサイボーグとしての能力。この地に流れ着いた真神が、己の体と引き換えにしてまで力を求めたのは、この無名騎士藩国をその力で守らんが為である。
 失った生身は、いわば生贄としてこの砂の大地に捧げられたのだ。
 サイボーグ歩兵としての力を失うことは、自ら捧げた供物が意味を失うことに等しいのである。
 一体、誰にこのような喪失感を味合わせればよいというのか。
 真神は、答えを出せずにいた。

 GENZは書類を渡した後、一言も発しなかった。
 ただ、静かに真神を見つめているだけである。
 そのGENZの端末が、緊急の呼び出し音を鳴らした。
「はい」
『松本です。報告がありますがよろしいですか?』
 それを聞いた真神が、席を外そうと腰を浮かせる。GENZはそれを手をあげて制した。
「ええ、どうぞ」
『失礼いたします。先ほど、出張中の沙崎さんから連絡があり、吏族として出仕しても構わない、とのことでした。それから、キギさんも出仕してくださることになりました』
「そうですか!……お二人に、ありがとうとお伝え下さい」
『わかりました。それからテストパイロットに関してですが、くまさんが出てくださるそうです』
 驚いて顔を見合わせるGENZと真神。
 およそ荒事には縁遠いくまが、立候補したのだ。
 確かめるように、GENZは端末に向かって話しかける。
「くまさんが?」
『ええ、今ご本人に…』
 端末の向こう側で松本の声が急に途切れ、騒々しい物音や誰かの叫び声が聞こえる。
 またもや顔を見合わせる二人。
 派手な雑音の後、聞き覚えのあるのんびりとした声が端末から流れてきた。
『藩王さまー、くまでつー』
「え、えぇ。くまさん、いいんですか?」
『はい、でまつー』
 片手をぴょこんと挙げるくまの姿を、真神は端末の向こう側に見た気がした。
 だがそんな平和な考えも、次のくまの一言で消し飛んだ。
『えと、松本さんから聞いたんでつけど、藩王さまも出られるんでつよね?…失敗したら、死ぬこともあるって…』
「…ええ」
『…えと、藩王さまがでたら不味いんじゃ…』
 おずおずと尋ねるくま。
 真神は、GENZを見つめた。
「ええ、マズいですね!」
 輝くような笑顔で言い切る藩王。
 その笑顔に、真神は開いた口が塞がらなかった。
「松本さんの言うとおり、パイロットで出ると死ぬかもしれないので、気をつけてくださいね?」
『うんー。私は別にいいんでつけどー…』

 その後、軽く雑談を交えて通信を終えたGENZに、真神はあらためて問いかけた。
 この『電網適応アイドレス』では、藩王の死亡は、即藩国の消滅を意味する。その危険を、いまここで冒す意味があるのだろうか?
「本当に、出て大丈夫なんですか?」
「まぁ、気合で何とかしますよ!」
 細い腕に小さな力こぶを浮かべて、元気よく言ってのける彼女に、真神は一瞬眩暈を覚えた。
「運が悪かったら死んじゃいますね、ハハハハハ」
「…あの、藩王」
「ハハハハ…って、はい?」
「俺が出ます。藩王の代わりに、俺がパイロットとして行きます」
 自らのこだわりの対象ともいえる藩王が、こうまで危険に身を晒している。ならば、それを守るのが自分の役目だ。
 それが、この地に自らの生身を捧げた時に立てた、ゆるぎない誓い。
 守るべき約束。
 真剣な真神の顔を見て、GENZはまたほんの少しだけ顔を曇らせた。
「…ありがとうございます」 
 彼女は悲しそうな表情のまま、笑顔を作った。


「いいにゃぁ、いいにゃぁあああ〜」
 パイロットシートに座る真神の肩にしがみつきながら、心底無念そうな声を上げているのは、猫整備士の冴月である。
 尻尾の先に掴んだドライバーを器用にくるくる回しながら、髭の揺れる口の先を尖らせた。
「俺もパイロットになりたかったにゃぁああああ〜〜!!!」
 真神は苦笑いを浮かべながら、ぶーたれる冴月を宥めにかかった。
「まぁ、仮にこれで死んでも、俺には何も残らないんだ。せめて死に花くらいは、派手に咲かさせてくれ」
 こう見えて、この猫整備士は技術開発委員会の委員である。これまで、主に空港の建設やパイロット周りの技術開発に大きく貢献している。
 それに比べて、自分はこれまで表立った働きをしていたわけではない。そろそろ自分の出番だという、意気込みが真神にはあった。
「でもにゃああああ!やっぱり、かっこいいにゃぁぁぁあああああ!!!!俺がパイロットで出たかったにゃぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!」
 真神の言葉が届いているのかいないのか。
 彼に向かってにじり寄る冴月。その狭い額に輝く三日月模様がどアップになる。顔が引きつる真神。
「…んで、操縦席周りのチェックは終わったのか?」
 唐突に冴月へ声をかけたのは、サイボーグ歩兵の静である。
 彼こそが、冴月の上司であると同時に、技術開発委員会の責任者だった。サイボーグ歩兵の身で技術開発委員会に身を置くという変り種である彼は、実はこの国のサイボーグ技術のパイオニアであり、自らの肉体をもその被検体としてしまった人物である。そして、今回真神の飛行試験の総監督でもあった。
「にゃ!もう終了してるにゃ〜」
 尻尾の先をうにょうにょと動かし、余裕を見せる冴月。だが。
「だったら油を売ってないで、とっとと次の仕事をしろ!部品チェックだ、逝ってこー一いッッッ!!!」
 襟首を掴まれ、筋力修正+2のサイボーグパワーで思いっきり投げ飛ばされた冴月。
 凄まじい速度で整備ハンガーの端まで吹っ飛んでいく。
「なんのKONISHIKI!ネコっと大回転でウルトラCにゃーーッッッ!!」
 空中でとんぼ返りをうちつつ上半身捻りまで加えて見せた冴月は、見事に部品の山へ突き刺さった。
 盛大に雪崩を起こす山積の部品。濛々と立ちこめる埃。
 商売道具とすっかり仲良くなった冴月は、逆さまに上半身を埋めたまま足を痙攣させていた。
「…まだ、死んでいない」
「…そうか」
 どこかの学兵スカウトのような会話を交わす真神と静だった。

 ところで、と静が真神に向き直る。
「真神さん、宮廷服が似合わないねぇ」
 けらけらと笑う静に、真神は苦笑いするしかない。試験飛行を行う為、この整備ハンガーを訪れた真神は、その身に真新しい宮廷服を纏っていたのだった。
 歩兵としての彼の姿を知る者は一様に、砂にまみれたぼろぼろのマントをかぶった、かつての彼の姿とのギャップに驚き、そして次の瞬間笑い出した。真神自身、これは似合わないな、と自宅の姿見の前で絶句しているので、特に整備士たちの反応には何も言わなかった。
 ただ、少し早まったのかもしれない、と軽く後悔しただけである。
「まぁ、それは置いておくとしてだ。どうです?今度の体は」
 真神のパイロット化を手がけたのは、この静だった。
 真神は静の手術によって、サイボーグとしての絶大な力を失っている。体表面に露出している強化セラミック製の骨格が操縦の邪魔となる為、骨格の大部分を、以前と比べると華奢なものへと換装している。それに伴い、骨格への負荷を軽減する為に強化筋肉の出力を抑えるリミッターが設けられた。このリミッターは、真神の意思では解除することが出来ない仕組みになっている。
 変わりに彼が得たのは、これまで他のパイロットたちが編み出し、練り続けてきた操縦技能である。彼らが操った機体に残されていた各種データから、操縦ノウハウを組み立ててデータ化し、脳内の機械義肢制御用チップにインストールしたのだ。
 この改造の成果が、これから始まる飛行試験で試されることになる。
「今のところは問題ありません。操縦の手順も、レクチャー通りにこなせると思います」
「OK!じゃ、始めますか」
 ハンガーの床に向かって飛び降り、コクピットに引っ掛けていたタラップを外すと、静は周囲に合図を送った。
 ハンガー内の空気が一気に張り詰める。
 整備士たちの怒号や足音が騒々しさを増す中で、真神はコクピットを閉じた。
 彼が今座っているのは、静が無名騎士藩国の博物館から引っ張り出してきたアイドレス、流星号のコクピットだ。静は今回の飛行試験を行うにあたり、自ら設計、開発したこの機体を使うことを選んだ。
 無名騎士藩国の流星号は、宇宙空間も含めた全領域での活動を可能とする汎用性が、最大の特徴である。今回の試験が航宙戦闘機パイロット用のサイボーグ技術の開発が目的である為、将来誕生するであろう宇宙軍用サイボーグは、この機体を操る機会もきっとある。今回のテストで、パイロットサイボーグの雛形である真神と流星号との相性を探るのは、当然のことといえた。
 何より静は、自らが生み出したこの機体に、絶大な自信と信頼を寄せていた。
 我が子は、まだまだ現役で活躍してくれるはずだ。博物館の片隅で埃をかぶっていていいはずが無い。たまには、散歩ぐらいさせてやろう、そう考えている。
 そして、そこまで信頼を寄せる機体だからこそ、大切な友人の初飛行のためにわざわざ引っ張り出してきたのだ。静もまた、サイボーグ歩兵である。サイボーグとしての力を失うことを了承して、今回の試験に臨む真神に対して、格別な感慨があった。
 静の中に熱く滾る、様々な想い。
 その想いが伝染したかのように、ハンガー内の整備士たちの間に熱気が満ちていった。

『システムオールグリーン!発進許可願います』
『こちら管制塔。了解、発進を許可する。グッドラック!』
 地下整備工場から射出された機体が、地表に向けて上昇する。
 砂漠の真ん中に口を開けたハッチから、真神の操る流星号が、轟音とともに飛びたった。
 そのまま一気に地上3000mまで急上昇。エンジンカット。
 自由落下を始める機体。
 降下中にエンジンに再点火し、落下速度を上げる。
 地上500mで操縦桿を引き、真神は機体を地表と平行にさせた。落下速度そのままに、流星号は砂の大地を飛翔する。
 博物館から引っ張り出された流星号は、静や冴月を初めとするメカニック達の手によって、完璧な仕上がりを見せていた。藩国を守る剣として、共和国を守る先駆けとして、戦場を駆けたかつての如く、その勇姿と武威を思う存分見せ付ける。
 その様を、歓声を上げる冴月や他の整備士たちとともに見つめる静。
 その目元が光ったのは、彼の眼鏡に西国の日差しが反射したせいではないのかもしれない。

 咆哮の様なエンジンの唸り声を聞きながら、真神は地表に眼を向けた。
 流星号が巻き起こす暴風が、大量の砂を巻き上げて小さな砂嵐を起こしていく。自らが操る機体の生み出した風が、遮るものの無い砂漠を駆け抜けていった。
 あてどもなく彷徨っていたかつての自分は、まるで風に飛ばされる砂粒のようだった。無名騎士藩国に仕えた後も、自らが大きなうねりに翻弄される小石に満たない存在だと、心のどこかで感じていた。
 だが、流星号を操り、自由に空を征く今の真神には、もはやそのような思いは皆無だった。
 自ら望み、自らパイロットとして生きることを選んだ自分は、もう風に運ばれる砂塵ではない。この先も、自らの意思と力で、どこまでも行ってみせる。
 地表では、歩兵たちがこちらを見上げて手を振っていた。
 真神はそれに応えるように機体を振ると、流星号をさらに加速させた。遮るものの無い、空の下で。

 この日、真神は風になった。


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『偵察部隊、敵性体との接触に成功。目標の予想進路とともに周辺の地形データを入手した模様』
「了解しました。これより出陣致します。共に和して自由の旗に栄光を与えんことを」
 通信モニターに向かって優雅に敬礼をする藩王・GENZ伯爵夫人。
 モニターが光を失った直後、彼女は背後に控える彼女の同志たちへ振り返った。
「さぁ、いよいよです。みなさん、派手にいきましょう!」
 颯爽と歩き出すGENZと、その部下たち。
 その中には、首から鮮やかな紅いスカーフをのぞかせた真神貴弘の姿もあった。
 その左胸には、燦然と輝くウィングマーク。
 それは新型I=D飛行試験に参加したパイロットのみが身につけることを許された、名誉の証であった。

<著者・どい>

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